妖孤伝説 3
森の木々がざわめくように 一陣の風が と八戒のもとに吹いた。
肩に乗るリムジンが ビクッと緊張したのを 悟空は見逃さなかった。
「何か来るな!」それは 確信に近い発言に聞こえた。
風に煽られて と八戒の2人は 目を庇って顔を隠した。
その瞬間 風にまぎれて 何者かが八戒を攫った。
悟空はそれにすぐ反応を見せると、をその場に置いて 八戒の後を追う。
から見えない位置まで来ると 八戒を抱えた奴は 速度を落とした。
悟空は ある程度の距離を保ちながら それに付いて行く。
八戒を助けるだけならば この場ですぐにでも 戦闘に入るのだが、
行方不明者の発見が 最優先事項なので、八戒を何処へ連れて行くのかまで
見届けなければならない。
それが近くであるならば 村の者にもきっとわかった筈だと踏んだ が、
悟空のお腹を心配して お弁当を2つ持たせてくれたのだ。
そして リムジンがつなぎを付けて 自分たちが迎えに行くまで、
悟空はその場で待っていて みんなの安全を守らなければならない。。
悟浄はからかい 八戒は笑い、三蔵にいたっては呆れていたお弁当だったが、
は真剣に悟空に言った。
「悟空の仕事に この囮捜査の鍵があるのよ。
大切な仕事なの それに危ないかもしれないわ。
だから 充分に気をつけてね。
悟空はお腹が減ると 力が出ないし、元気もなくなるわ。
そんなときには お弁当を食べて 私たちが行くのを待っていてね。」
の顔は心配そうだった。
自分をそうやって 心配してくれるのためにも 悟空はがんばろうと思う。
そんな事を考えながら 八戒たちの後を追っていると、
岩山にある1つの洞窟に 入っていくのが見えた。
悟空は そのまま暫く その場で待ってみた。
中に入ってみようかとも思ったが、八戒だけならともかく
妖孤の村のもの達もいるとなると、
迂闊な手出しは 危険に巻き込む事になる。
やはり連絡を取ったほうがいいだろうと 肩にいるリムジンを飛ばす事にした。
「リムジン のところへ行って みんなを連れてきてくれよな。
ここが村から離れていても リムなら飛んで行けるから早いだろう。
いい子だな、俺 ここで待っているからな。
そら 行け!」悟空はリムジンに話しかけた後 空へ向かって飛び立たせた。
リムジンは 空高く舞い上がるまでは 小さい姿のままだったが、
邪魔物のない広い空中にまで上がると
本来の大きな姿となって 村を目指して飛んでいった。
悟空は 見えなくなるまで リムジンの飛んでいくのを眺めていたが、
ここまで 走ってきたためか お腹が空いている事に気が付いた。
「のお弁当食べようっと!」
悟空は背中から お弁当の包みを降ろすと その内の1つを出して食べ始めた。
一方 村を目指して飛んだリムジンは すでにその視界に 村を捉えていた。
主のに言われたとおり いつもの小さい姿に縮んで 村に近寄る。
たちが待っている 万葉の家の窓にたどり着いた。
鼻先で 窓のガラスを つつくと それに気が付いたが、
家の中に引き入れてくれた。
「リム お疲れ様でしたね。
さあ もうひとがんばりお願いしますよ。ここで待っていてください。」
は 水と餌の入った皿を置いてやると リムに食べさせて 自分は準備をした。
「三蔵 リムが戻って来たので 私は八戒と村人を助けに行きます。
八戒がいない以上 ジープは動かせませんから リムに乗って行ってきますね。」
笑顔で 説明をし 外へ出ようとしたの腕を 三蔵は掴んだ。
「俺も行く。」
それまで 煙草を吸いながら 部外者を決め込んでいた三蔵が そう言った。
その様子に 悟浄はにやりと笑みを浮かべる。
この男に救われるのは こんな時だと思う。
最後の最後で手を差し伸べる優しさが
その人間の自立を促しながらも救っている事に、
三蔵自身は気が付いていないかもしれない。
だが この旅に 悟空とはともかくとして 八戒と悟浄が同行しているのは、
ただの命令だけではない。
「じゃあ 俺っちも行こうかな〜、
後から 八戒に睨まれるのも 薄気味悪くて嫌だし・・・。」
悟浄も出かける用意をした。
そんな2人を見て は微笑むと、「悟浄は ジープに乗ってきてもらえますか?
帰りは さすがに 全員リムには乗れませんし、重体の方がいれば
乗せて差し上げたいので お願いします。
何とも無ければ 帰りは八戒が運転してくれるでしょうから・・・・。」
その話を聞いた ジープは首を上げて リムと一緒に水を飲んだ。
「へ〜い、にゃかなわねぇな。
随分と俺達の扱いが うまくなったもんだ。」悟浄のウィンクつきの台詞に、
三蔵の眉間のしわが深くなったように見た悟浄は それ以上何も言わなかった。
が ドアを開けて外へ出たのを見て リムジンとジープの2匹も 外に出て
各々に 変化して用意している。
万葉は その3人と2匹の様子を 心配げに見ていたが、
「どうぞ ご無事でお帰り下さい。」と頭を下げて見送ってくれた。
はリムジンに 三蔵と悟浄は ジープに乗って、
リムジンが向かう洞窟めざして家を出た。
人間ではない 妖孤ばかりをさらうと言う妖怪は いったい何が目的なのだろう?
また 吠登城関連なのだろうか、それとも
それらを隠れ蓑にした 妖怪の単独犯なのだろうか?
何も解らないが 八戒のためにも 助け出さなければならない。
はそう考えていた。
八戒は 意識の無い振りをしながら 攫われて運ばれている間も犯人を観察していた。
どうやら 同属の妖孤、しかも女だ。
しかし 憎しみや命が目的ではなさそうだ。
こうして攫ってきても 何もしないで 八戒が目を覚ますのを待っているふしがある。
薄目を開けてみると 見目も麗しい女のようだ。
手も足も縛ってないのは 自分の力への過信だろうか?
他にもさらわれた者がいる以上 起きて相手の出方を見てみようと 八戒は判断した。
意識を覚醒するような振りで 目を覚ましてみる。
後ろを向いていた犯人の妖孤の女は その八戒のうめき声に反応して 振り向いた。
八戒の予想通り その女は 美しかった。
「お目が覚めたようですね、突然攫ってしまって申し訳ないです。
貴方には 私の研究に 協力していただきたいのです。
それが済めば 里に返して差し上げるので お願いしますね。」
予想に反して その女は 静かにそう言った。
「協力とは 何に対してですか?
何を研究しているのです? 見れば貴女も同属のようですが、
里のものではないですね。」
「ええ 私も確かに妖孤ですが 北に住む一族です。
私の里には もう随分子供が授からなくて 調べた結果
里内ばかりで 結婚を繰り返したために、
血が濃くなりすぎて 子供ができないという事がわかりました。
それで この里で 一番遠い血を持つ男性を 連れて行って
その人の血を一族に入れる事にしたのです。
それを調べたいので 少し採血させてください。」
「今までに攫った方はどうしたのですか?」
「はい 今は眠っていただいております。」
「そんな強引な手を使わなくても 正直にお願いすれば
皆協力してくれると思いますよ。
あなたのように美しい人となら 村を一緒に出て行くというものもいるでしょう。
あなたが攫った者の中には 妻子がいる者もいるのです。
独身の者の中から選ぶと言うわけには行きませんか?
これを機に 交流を始めてもいいでしょうし、いまさら言いにくいのならば
僕が協力してあげましょう。どうですか?」
こうして聞けば それなりの訳のあることであったが、しかし それだからといって
無分別に攫っていいというものではないだろう。
のことです きっと平和的な解決を望んでいるはずだと、
八戒は この妖孤の説得に当たる事にした。
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